東南アジア日本語文庫調査


 近代において日本語図書が国内外でどのように流通し、読者との関係を形作ってきたのか、という問題意識をもって研究を進めています。北米を研究対象に海外への日本語書物の流通を調査・研究していましたが、2012年以降、東南アジア地域における日本語文献の流通にも関心を向けています。
 東南アジア各地に遺されている日本語文献、特に図書・雑誌類について、その歴史と現状を調査・研究し、さらには日本文学の位置や役割をも視野に入れて考えていきたいと思います。また、より大きな視座に立てば、日本で生まれた書物が、近代の日本と東南アジア各国との関係史の中で担ってきた役割や、書物の国際的な流れやその変化が、どういう事象や人々の活動と結びついてきたのかをもとらえたいと考えています。
 本調査は、科学研究費補助金「読書環境の歴史調査に基づいた近代文学の研究・教育方法の構築」(2012年度〜)、及び「近・現代東南アジア地域における日本語文献の受容・流通についての研究」(2016年度〜)の支援を受けています。

ベトナム社会科学院 旧EFEO収集日本語文庫調査



 ベトナム社会科学院の社会科学情報研究所(Vietnum Academy of Social Sicences, Institute of Social Sciences and Information)が所蔵する日本語資料群について調査、・研究しています。
 これら文献は、かつてこの地にあったフランス極東学院の収集した文献です。フランス極東学院(Ecole francaise d'Extreme-Orient)は、1898年に中国や近隣諸国の研究を目的としてサイゴン(現ホーチミン)におかれたインドシナ考古学研究所を前身として生まれ、1900年にフランス極東学院と改称、翌年にハノイに移ります。1957年にフランス極東学院はハノイからフランス本国に撤収しますが、収集してきた資料類はその折にベトナムに移管されました。ベトナム社会科学院が受け継いでいる文献には、日本語文献約1万1千冊、中国語文献が約3万3千冊含まれます。
 2013年から、この研究所の協力を得て、所蔵される日本語文献の調査を開始しました。2014年には日本側での調査グループを構成して調査を進め、2015年からは国文学研究資料館との共同研究の形で進めました。
 これらの研究の成果については、以下の形で公開されています。

ベトナム社会科学院 旧EFEO収集日本語文庫目録 和装本(excel形式)
ベトナム社会科学院 旧EFEO収集日本語文庫目録 洋装本(excel形式)

プレスリリース「ベトナムの日本語資料コレクションの全体像を解明」

論文等
  • 海野圭介「江戸時代初頭の出版物を中心に」『リテラシー史研究』11号、2018年
  • 佐野愛子「日越交流に関わる資料を中心に」同
  • 中野綾子「「河内日本人会会員名簿」について」同
  • 和田敦彦「在仏印日本文化会館関係資料について」同
  • 佐野愛子「ベトナム社会科学院所蔵の「異国渡海御朱印帳」、「異国近年御書草案」、「異国御朱印帳」、及び「安南記」、「安南来状」について」『リテラシー史研究』10号、2017 年
  • 渡辺匡一「ベトナム社会科学院藏・旧フランス極東学院日本語資料調査の経過報告 和装本資料群の特徴について」『リテラシー史研究』10号、2017 年
  • 和田敦彦「ベトナム社会科学院所蔵・旧フランス極東学院資料 共同研究と調査の進展」『リテラシー史研究』9 号、2016 年
  • 和田敦彦 ベトナム社会科学院所蔵・旧フランス極東学院資料 東南アジア地域の日本語図書調査から」『リテラシー史研究』7号、2014年


インドネシア国立図書館日本語文庫



 現在、インドネシア国立図書館(Perpustakaan Nasional Republik Indonesia: PNRI)は、貴重な日本語図書群を所蔵しています。これは日本占領期のインドネシアで、日本の軍政のもと構築された約1200冊からなる日本語図書群です。その特徴や成立過程について、詳しくは以下の研究成果をご参照下さい。この文庫の図書は、1940年から44年にかけて、すなわち戦時期に刊行(重版を含む)された図書がその多くを占めています。
 2014年からこの機関での調査を開始しました。これらの図書は、現在は同図書館の五階貴重書庫にまとまって配架・保存されているが、一般には公開されていません。これら図書には蔵書成立時の日本語による「博物館図書部」のラベルと番号が貼られており、その番号のままに今日も配架されています。調査開始時には目録が作成されていない状況だったため、同図書館の協力を得て、目録を作成しました。目録情報は、同図書館の他、ジャカルタ日本文化センターを通して、同地の研究者に提供されています。

インドネシア国立図書館日本文庫目録(excel形式)

論文等
  • 和田敦彦「日本占領下インドネシアの日本語文庫構築と翻訳事業」(河野至恩・村井則子編『日本文学の翻訳と流通』勉誠出版、2018年
  • 和田敦彦「インドネシア国立図書館の日本文庫 総目録、及び文庫の特徴・課題」(『リテラシー史研究』10号、2017年
  • 和田敦彦「図書館蔵書から読書の歴史を探る 日本占領期インドネシアの日本語図書から」『日本文学』11月号、2016年
  • Wada Atsuhiko, “Tracing the Routes of Book Distributions: A Challenging Approach in Studies of Japanese Literature”, Bakumatsu-Meiji Symposium, “L’Orientale” University of Naples, Nov. 4th, 2016.